第2回 「見える化」で生産の効率化を図る(戦略と生産計画・進捗管理の見える化を推進する)

1.「社長の思い」を「見える化」する

 「社長の思い」は、「現在の姿」から「こうありたい姿」に改善していくことであり、これがビジョン・戦略になります。「将来このようになりたい」「こうすれば他社と差別化できる」という思いです。「社長の思い」を実現していくためには、この思いを全社に浸透していく必要があります。
全日本製本工業組合連合会では、平成20年に、製本業中期振興ビジョンとして、新しい製本業の確立と成長を目指して五年、十年先を見据えた指針を示しています。製本業は従来の「請負型モデル」から、「川上ワンストップ型」「川下ワンストップ型」高度専門型」「商品・技術開発型」「製本コディネート型」「製本業務受託型」「企業連携型」「デジタル技術活用型」へと変革をしていくことが必要であるとしています。社長の思いを実現するために、企業の実情や経営環境に適した型を選んで自社のビジョンにしていくことが肝要です。
この五年、十年先のビジョンが決まれば、次に二~三年後の戦略マップを作成します。これは変革を実現するための実行計画です。
図の戦略マップは、「バランススコアカード」で描いた具体的な戦略マップの例です。社長の思いを実現する「売上の拡大」を実現するために顧客の視点を考え、業務プロセスを改善し、人材育成と変革を目指していきます。
この戦略マップを社員全員に周知させ、将来ビジョンを全員が共有できるようにしていきます。
経営改善は「戦略策定→実行→検証」の繰り返しになります。
計画が実行できているかどうかを検証するためには現場で実践したデータを収集し分析する必要があります。データを見て計画通りいかないときは戦略の見直しが必要になります。業績データが「見える化」されていれば、改善点がいろいろあることに気づくものです。全員が気づくシステムの構築が必要になります。このシステムを現場で徹底したのがトヨタの「KAIZEN」です。

「重要成功要因の見える化」

社長の思いを実現する戦略をどのように実行していけばよいのかを考えます。どのようにしたらよいのかは全員で議論をしていく必要があります。そして重要成功要因の業績評価指標を決定します。
業績評価指標は重要成功要因が計画通りに実行できているかどうかを客観的、定量的に確認するための指標です。
財務の視点で重要成功要因の業績評価指標を売上高増加率とする場合は、売上高の前年同月比をグラフ化して貼り出します。

2.生産計画の「見える化」でムダをなくす

経営戦略(「社長の思い」)を戦略マップに落とし込み、具体的な実行計画を作成します。受注産業だからといってなりゆき任せでは行き詰ります。受注計画を作り空きを埋めていく営業努力が必要です。計画(受注予測)と引合い・受注の差異を「見える化」することにより、営業目標や要員計画に対し、早めの対策を講じることができます。製本全体の需要が減少していくなか、小ロット・短納期の受注の比率が増加しています。受注量の変動が大きく、限られた生産設備では、仲間仕事に回したり、場合によっては受注を断ったり、また受注が少なく手待ちになることがあります。納期だけを考えて作業スケジュールを組めば残業や手待ちで余分なコストがかかってきます。人、設備、材料を最も効率よく活用できる作業方法で、顧客のニーズに適った品質、コスト、納期を満たす必要があります。

生産を効率的に行うためには生産能力に近い生産を続けていくことが重要です。共有部品がある手帳製本等では、生産の平準化を行うために年間を通した粗い生産計画を立てることができます。一般の書籍製本や商業印刷製本でもできるだけ生産計画の平準化のため三カ月計画(大日程計画)、月次計画(中日程計画)、日程計画(小日程計画)のように段階的に連動した計画を可能な範囲で作成します。大日程計画は過年度の生産情報と現在の引合い情報に基づいて作成します。
タイムスパンは1カ月、週間、日別など、各社の実態に合ったものを採り入れます。

大日程計画は、現状でどの程度の生産量があるかを把握し、要員計画と外注計画を見直していくために重要です。過去の受注ロット単位の出来高を月別に集計した生産量をもとに、予測した伸び率を掛けて計画とします。
ただ、飛び込みの多い製本業界では「先の受注をどう読むのか」「注文の多様化に対応した生産量(負荷)をどう読むか」が問題になります。負荷の見積もりはある程度の粗さがあってもかまいません。大日程計画で生産の平準化を行っていくのが目的です。
この負荷を算出するために実績と計画の差を把握できるシステムが有効です。

3.工程別生産能力を把握し、計画と調整する

 生産を平準化するためには、各工程(機械)の負荷(生産能力)を知っておく必要があります。理論的には工程別の単位時間当たりの生産量から生産能力を算出しますが、製本では工程が多岐にわたるだけでなく工程の組み合わせが多いので、実績から推定していきます。受注ロットを生産に必要な時間で分けていけば、大きく5つぐらいのパターンに分けられるのではないでしょうか。過去の実績のデータを用いてそれぞれのパターンでの生産時間を決定します。5つのパターンの受注量を想定して、生産能力を決定します。
 工程別負荷ができれば、人員を加えた生産能力を算出します。
 生産能力(人員、機械)=1ヶ月の稼働日数×1日平均実働時間×稼働率×人員数(台数)
ただし、稼働率は、人ベースでは[出勤率×(直接作業率)]で、機械ベースは[機械が処理している時間]を用います。
段取り、運搬などで機械が動かせない作業は間接作業率で直接作業率から除外します。
いずれにしても、やり方は1つではなく、自社の業務ワークフローに基づき、実態に即した管理方法を採用するしかありません。

詳細な稼働日報データを入力できる人的余裕のある会社では、蓄積された稼働データをもとに工程別生産実績や製品別工程別生産実績を指定期間(年、四半期、月、週、日)で集計し工程別の負荷分析を行い、現状要員での生産
能力を算出します。
また、書籍製本の場合、無線綴じラインの管理のみをシステム化し、前工程の断裁・折り・貼り、後工程のトライオート・手仕事などの仕上げ工程や、別冊などの中綴じ工程は、指定期間の件数と部数のみを工程別ボリュームチェック表に集計し、工程別の生産量を把握する方法をとることができます。

4.基準日程表を活用する

 月単位の計画の生産量(負荷)と生産能力をもとにして週間計画、日程計画を具体的に決定します。基準日程表を作るためには、生産能力と今までの作業実績をきちんと調べておく必要があります。生産計画と総負荷が算出されれば、この両方を比較して検討を行います。
製本業は下請けが多く、特急の受注など短納期対応が必要になります。受注する内容が多様化し、煩雑になってきています。自社がどの程度の生産能力があり、どの程度の注文が受けられるかを把握しておき、前倒しで計画していくことが必要です。仕事の負荷と能力に差がある場合の調整は次の方法で行います。
① 残業・休日出勤などで能力を増大させる
② 多能工化により人員の不足している職場に応援を出す
③ 作業日程をずらし、一部の仕事を後回しにする
④ 仕事の一部を仲間仕事や下請けに出す
⑤ パートタイマーを活用する
⑥ 新規計画として、人員や機械設備の増加を計画する
生産量の不足は残業で処理する場合が多いのではないでしょうか。残業がやむをえないものであるか、無駄な残業であるかは、生産能力を正確につかんでいれば判断できます。生産能力が「見える化」されていれば、どのような方法で短納期に対応するかが見えてきます。
また、長期計画を考えるためにも生産量と生産能力の把握は重要です。

5.標準化で多品種少量生産の効率を高める

多品種少量生産を効率化するために標準化が必要になります。標準化するためには基準が必要です。まず、基準を作り、実施し、基準を評価し、基準の見直しをしていきます。基準は企画やマニュアルで文書化されたものです。標準化は多品種を工程別に整理し、同じような工程は一つにまとめて標準を作っていきます。工程別生産能力で用いた顧客の受注を生産時間で大きく5つぐらいのパターンに区分するのも一つの方法です。例えば、工程をこの5種類に限定し統一し、規格を定めて使用の基準を示します。
標準化には方法の標準化と作業の標準化があります。
方法の標準化は、作業のやり方を標準化して作業標準という形にします。通常は作業マニュアルが方法の標準になります。
作業の標準化は作業のやり方を標準化して作業標準の形にします。作業標準の作成には、現状の作業のやり方を把握し、改善すべき点を指摘し、どのやり方が最も効率的かを考えて決定していきます。作業標準は受注内容により変わってきます。常に内容を更新していく必要があります。トヨタなど大手はこのような作業標準の変更を頻繁に継続的に行ってよりよい作業標準を目指していく習慣が身についています。標準化は、多品種少量生産を少品種多量生産に近付けることになります。標準化により、生産計画や生産統制が容易になります。

6.多能化でコストダウンを図る

 標準化を効果的にするために多能化が必要です。製本は工程が多く、人員の不足している工程が必ず発生します。一人の人が複数の仕事をこなす多能化により、効率のよい生産が可能になります。製本工程には忙しい工程と暇な工程が必ず発生します。多能化により作業の平準化を図っていきます。不足している作業の応援を行い、作業が滞らなくするのが多能化です。これが作業の平準化につながります。
これは、効率的な人員配置によるコストダウンにつながっていきます。
多能化、標準化により、段取り替え、運搬作業の時間を短縮して、小ロットを頻繁に行える生産体制を確立することが、多品種少量生産の効率を上げる重要な手段となります。

7.「目で見る管理」で計画の進捗状況を把握する

コンピュータシステムは、一定の制約条件の中で生産計画を策定することや、進捗情報などを伝達することができます。
しかし、計画と実績の差異を修復したり、発生する諸問題を解決するのは、管理者や現場担当者の仕事になります。計画は立てただけではなく、現状とのギャップを「見える化」し、異常の早期に対策をとっていくことが重要です。計画に対してどのような進捗状況なのかを図表やグラフで示し、計画と実績のギャップを「見える」ようにすることが「目で見る管理」の効果的な方法となります。
E社は生産計画達成率のグラフを作成して現場に貼りだした。
生産現場全員が業績に関心を持ち、現状を把握することで改善点を見つけ出す習慣をつけることが狙いであります。さらに、数字で話をする習慣をつけることで、大目標と小目標の関係を把握し、会社の業績向上に結び付けられる「人の育成を図る」ことも目標になります。


F社は、計画日程表を「見える化」するだけでなく、作業の進捗状況が逐一計画日程表上に表示され、どの工程が予定通り進み、どの工程が遅れているかがわかるようなチャートを現場に提示しています。
「見える化」によって管理者と現場担当者の間で情報が共有され、情報の伝達漏れ、伝達ミスによる工程遅延や納期遅延などが未然に防止され、円滑な業務進行に役立ちます

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