第1回 「経営改善で生き残りをかける」

1.見える化で経営力を強化する
製本業は、情報のデジタル化、メディアの多様化、受注単価の低下、取引先企業の製本内製化、顧客の海外移転など厳しい経営環境にあります。
いま経営の改革が必要とされるのは、先の見通しが立たず、過去の経験則が通じない不透明の時代に突入しているからです。
 先が見えないのであればそれを見るための目とそれを補助する道具が必要になります。「見える化」が重要になっているのは先が見えない時代だからです。
経営改善の第一歩は自社の経営状態を把握し、問題点を抽出し、改善計画を立てて実行していくことです。
あなたの会社では、必要な時、必要なデータが把握できるようになっているでしょうか。
経営状態を把握するためには様々な情報が必要になります。多くの情報を迅速に的確にいつでも取り出せ、社員に伝達するシステムが必要になります。経営改善に必要な多くのデータを一元的に管理するためにはITを活用するしかないのです。多くの会社でデータはあるが有効活用されていない事例を見かけます。ITにより、データ管理が容易に行えるようになり、経営改善のスピードが向上します。
経営改善に有効なシステムを持ち、変革の時代を生き抜く企業の要件は次のものとなります。
① 顧客が魅力を感ずる「強み」を持つ
② 自社の強みを発揮できる顧客とのネットワークを組んでいる
③ 経営環境変化に適応でき組織体制、システムを持つ
これらの要件を達成するために、経営課題を迅速に把握し実践に移していくことが重要です。迅速に情報を入手し課題を的確に把握するためには、ITの活用が不可欠になっています。

2.経営改善で「社長の思い」を達成する
 企業が競争他社と製品・技術などで差別化し、優位性を保つために「競争戦略」が必要になります。これが「社長の思い」であり「企業の生き残り策」になります。この「社長の思いを実現していくのが「組織」です。社員一丸となって目標を達成するために全力を傾注する「組織力」が必要になります。経営者は、企業が向かうべき方向を明確に打ち出し、「社長の思い」と「組織力」を一致させて、目標を達成していきます。この組織力を構築していくのが経営者のリーダーシップです。組織力の高い企業は、社員が「社長の思い」を十分把握・理解し、よりよい具体策を決めて実行していき、実行段階で起こった様々な問題点を短期間で解決していきます。
 組織力を高めるためには、社員全員が問題点を共有し、ひとつの目標に向かって全力を注げる体制を構築することです。必要な情報を必要な時に迅速に収集でき、社員にその情報を迅速に伝達し、全員が「情報の共有化」ができていることです。これが「現場の見える化」になります。受注から出荷までのすべての工程で「見える化」を推進することで、組織としての情報の共有化ができるようになります。これを手助けするのが「情報システム」です。
 従来のシステムは高価で一度導入してしまうと手直しが難しく、IT投資は無駄であると思っている経営者もいます。現在はIT技術の進歩が目覚ましく、今までよりはるかに安価なシステムが出ており、企業の必要性に応じたシステムを容易に導入することが可能になってきています。

3.企業のレベルに適応したシステムで生き残る
IT経営は、経営者のレベルに応じて活用していくことができます。受発注から出荷までの製本業務を管理することができ、さらに、売掛金管理、採算を見るための原価管理、財務会計、給与計算など会社に関するすべてのデータを一括管理することができます。「社長の思い」の実現のために企業の状況に応じてできることからIT化していくことが重要です。

(1)IT経営を「知らない」経営者
 ITの必要性を認識していない経営者です。いまやインターネットを使っていない企業はありません。ITがなくても不自由しないと思っている経営者はいません。ただ、従来のやり方を変える余裕がなく「社長の思い」が実行に移されていないだけです。受発注の業務でもITは不可欠です。伝票のIT化はほとんどの企業が活用しています。
最初は「事務の合理化」からIT化を始めましょう。今までは残業が発生していた業務が、定時内で簡単に処理できるようになります。
(A社の事例)
A社は、教科書や学参書の製本を主に扱っており、受注が繁忙期に集中する傾向があります。IT導入前は、作業指示書から、納品書、請求書発行に至るまですべて手書きで行っていました。作業指示書に書いた品名を、納品書や請求書に何度も記入するため、二重・三重の手間がかかるだけでなく、記入ミスの要因ともなっていました。請求締め日が近づくと請求業務でてんやわんやとなり請求漏れが発生したり、他の仕事に目が行き届かなくミスが出るなど、トラブルにつながることも多くありました。
製本管理システムの導入により、データの一元化が実現し、受注情報と売上を入力するだけですべての帳票が自動で印刷されるようになり、事務のミスが激減しました。
そして、請求締め日に集中する事務量が大幅に減少し、締め日前後の残業とストレスから解放されました。

(2)IT化をためらう経営者
 IT化を検討したが「金がかかる割に効果がない」とITへの投資をためらっている経営者です。このような経営者は「社長の思い」を明確化し、「自社のあるべき姿」を明確に描いてみましょう。「自社の現状の姿」と対比し何をすれば「あるべき姿」になるかを具体的に計画してみます。その計画実現のために「見える化」が必要で、IT化が大きな役割を担っていることが分かるはずです。
 担当者が自ら「社長の思い」を実現できる計画(作業計画)の策定に参加し、責任をもって行動する必要があります。また、計画と実績を対比して、問題があれば対策を講じます。この計画と実績の対比のためのデータが保管されているのがパソコンです。必要に応じてデータを引き出し「見える化」を行っていきます。

(B社の事例)
B社は、創業40年以上の歴史を有する製本企業です。社長を含めた従業者数は4人と小規模ながら、全工程一貫生産を強みとしています。同社の設備は、中綴じ・無線綴じ各1ラインの他、折り機、断裁機、穴開け機を有しています。
また、他社でやりたがらない薄物の無線綴じを独自の方法で品質を作り込み、積極的に受注活動を行っています。
小規模企業においては、社長も現場に入り働いていることが常態化しています。この実態を踏まえて、必要機能を絞り込み、データ入力の許容負荷と最大の導入効果を目指してIT化しました。
まず、最小限必要な「現預金の出納管理」「請求書管理」をIT化し、次に、一歩進んで「製本予定表作成機能」を組み込みました。
そして、老朽化していたFAXを廃棄して、価格・性能比の優れたA4サイズのFAX・プリンタのカラー複合機を設備しました。
仕事の流れは、受注と同時に作業指示書を発行し現場に配布します。また、受注時に刷り本の搬入予定日と納期を入力するので従来手書きで作成していた予定表が、品種や搬入日により自動的に色分けされて出力されます。カラー指定は、システム側で必要な帳票のみとし、それ以外の帳票はモノクロに設定することによりランニングコストを抑えて運用しています。
B社では、一元化されたシステムの導入により手書きで行っていた作業がほとんどなくなり、データ管理体制は整いました。今まで、取られていたムダな時間を、生産設備強化や新しい加工方法、関連業界の市場動向などの情報収集に振り向け、営業戦略策定に充てることができるようになりました。

(3)「拒絶」経営者
 「IT投資を積極的に行ってきたが、投資効果が発揮できない。」「IT投資は現状で十分である」というIT投資に消極的な経営者です。「社長の思い」は明確ですが、「自社のあるべき姿」が明確になっていない場合です。導入したシステムの柔軟性と拡張性が不足していたのです。誰でも使え、「見える化」の範囲を広げようとしてもそれに対応できるシステムにならなかったのです。ITの進歩で安価で柔軟性と拡張性を兼ね備えたシステムが利用できるようになってきています。

(C社の事例)
 C社は、一般向けの管理ソフトをいくつか使用していました。製本工程は複雑で、前工程の遅れや刷り直し等により頻繁に作業予定を組み替える必要があります。一般管理ソフトはこのような作業変更に対応できなかったため、せっかく入力した製本データを一元的に流用したり活用したりすることが難しく、メリットがほとんど発揮できない状況でした。また、検索機能が不十分でパソコン上にある有効データを活用できないでいました。
製本に特化した製本管理システムを導入することで、これらの悩みは解消されました。部材搬入チェック表、折・貼込み手配表、配車予定表、受注伝票、納期一覧表、週間作業予定表、進捗一覧表、分納納品書などの生産管理諸表が必要に応じて簡単に手元に引き出せるようになりました。
「表紙の入荷枚数はいくらか」「カバー・スリップは入っているか」などで倉庫や刷本置き場、機械周りを走り回り、下請け外注に電話連絡する、といった作業のムダを軽減することができるようになりました。このように今まで簡単に見えなかったものが、見えることによって、現場と営業・管理とのコミニュケーションコストが削減されるだけでなく、円滑な進行管理が可能になりました。この進捗情報の「見える化」により納期遅れ・作業ミスなどのトラブル件数が80%削減されました。

(4)「積極」経営者
 「IT無しでは仕事にならない」「IT活用はまだまだ」という経営者です。時代の変化に適応したシステムを導入し、ITによる経営改革を実施しており、「経営スピードの向上」「経営状況の見える化」「経営データ活用の高度化」を実践しています。営業業務、生産業務、経理業務のすべてで「見える化」を行っています。
 「経営データの高度化」を営業、生産、外注、出荷、在庫のすべての工程で行っています。生産面では、顧客ニーズの細分化に伴い生産種別コスト管理を行い、顧客の要求に応じて原価管理の精度を高めています。
納期管理は生産や外注の状況について受注ロット別に作業工程管理表で毎日把握し、対策をとっています。
売上管理では、顧客別、品目別など売上動向を定期的に分析し、変化が起った時の要因を把握し対策を立てています。顧客の受注別採算管理を精緻化しています。
 
(D社の事例)
 従業員数40人規模のD社では、顧客別採算管理を実施しています。
受注番号別に売上から人件費・運賃・外注費を差し引いた金額の少ない順、1冊当り単価の低い順に並べて見ることにより、マイナス受注が浮き彫りになります。
経営者や管理者は、粗利額や1冊当りの単価の低い受注はどのような品物で、どの顧客のものが、採算がとれていないか、その理由はなにかと注意を喚起でき、早期の対策を講じることができます。また、顧客別の採算が常に見えるため、迅速に営業戦略を見直すことができます。
また、工程や進捗の「見える化」により納期遅れや作業ミス防止だけでなく、今まで見えなかった情報を「見える化」することにより、社員の納期意識・コスト意識向上にもつながりました。

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