第5回 人の力を最大限に発揮する

「社長の想い」を実現していくのは人です。全社に社長の思いを浸透し、その目標に向かって各人が最大限の能力を発揮できるように人を育成していくことです。経営者は人材育成が大切であることを理解し、育成に積極的です。しかし、すぐに結果が出るわけではありません。忍耐強く育成を図る必要があります。

中小企業は経営トップと従業員が一本の線で結ばれており、小人数で開発から調達、購入・生産・マーケティング、財務などの業務を一括して担当することが多くなります。個人個人が重要な仕事を任されるチャンスは多くあります。成功体験を得る機会も多く、技能・能力も蓄積されやすいことになります。したがって大企業にない特殊な分野の開発や事業化ができやすいといえます。教育・訓練によって、自発的に社長の想いを実現できる人を育てていけば結果は付いてきます。

目標達成には、顧客要求を瞬時に商品化する力、マーケティング能力、特殊分野、ニッチ市場で勝負できる力を持つ人材を育成し、その人材を育てる環境が必要です。

この目的のために「目標管理」があります。

1.目標管理で職場を変える

目標管理は、「会社の目指すものと個人が目指すものを摺り合せて、それぞれの従業員の自主性を重視しながら、業績向上を目指していくもの」です。

目標管理は、従来の上司の指示100%に従って働く上司の管理から、各従業員が自分で自分を管理することにより経営への参画意識を高めることが大きな目的です。  目標管理により、従業員のやる気が高まり、仕事に対して前向きな組織になっていきます。

高い目標の設定で能力の高い人材の育成が可能になります。また、計画的な育成もできるようになります。

2.「目標管理カード」を作る

目標管理は、目標管理カードを作成して、管理していきます。カードに記入する内容は、

①課題:各従業員が何をするべきなのかの具体的内容

②達成方法:目標達成のための具体的な行動

③達成水準:達成目標の内容

④期日:いつまでに達成するか

⑤重要度:すべての目標の合計を100とした比率

⑥自己評価:目標への達成度

⑦上司評価:目標への達成度

などです。

3.目標設定は「社長の想い」を具体化していく

目標設定は、「社長の想い」を具体化したものです。「売上高の拡大」の社長の想いに対して、部長は「売上高○億円の達成」、課長は「既存商品で売上の拡大」、担当は「不良品ゼロ」「生産性の向上」など連動した計画を立てます。

上位目標と連動しなければならないといっても特殊な業務や仕事を探し出す必要はありません。日々行っている業務の中から探し出せばよいのです。常に改善を意識して業務を行っていれば、課題は容易に見つかります。」

4.目標管理はPDCAサイクルを実践する

目標管理は、結果が直接実績に結びつくことが重要です。

PDCAサイクルの中でC)チェック)とA(アクション)に力を入れます。

表1

P社では、表1のような目標管理カードを作成し、具体的な行動を常に意識しながら仕事に取り組むことにしています。チェックの際は、何がよくて目標に近づいているか、なにが悪くて目標に達していないかを確認させています。その結果を行動に移すことで、PDCAサイクルが回るように工夫しています。

Q社では、目標を決算数字と一致させるようにしています。書式は効率のよいように何度か改良し、発表会を全員が行うようにしています。発表することで、目標を全員に約束することになり、約束は実行しなければならないという気持ちが高くなってきます。社長や部門長の考え方や優先度に合わせた目標が理解されるようになり、皆の気持ちもまとまってきています。

N社では、年度ごとに三つの目標を立てさせます。目標を行動に移すために、具体的な行動を六つに落とし込ませています。そして「C」段階でチェックさせます。何がよくて目標に近づいているか、何が悪くて目標に達していないかを確認させ、そのチェック結果を直ちに行動に移すようにしています。

5.目標管理の結果から人事評価の基準を明確化する

目標管理の結果を人事評価に活用します。目標管理表には自己評価と上司評価の枠を設定します。目標管理表の各項目の評価シートを作成し、評価している企業もあります。

W社では、目標管理表の必要な項目を網羅した「評価シート」を作成し、○、△、×で評価しています。このシートは、本人が記入し、上司との面接で一つずつ確認していきます。期半ばの面接で△の項目を達成することができなければ期後半も目標達成が難しくなります。これにより、目標として何をすればよいかが明確になり、目標管理が定着しました。

6.人を育てる賃金制度を導入する

目標管理の結果から人事評価を行い、結果を賃金に反映します。

総人件費を抑えながら、従業員の確保、定着を図り、かつ士気を高めるためには、目標管理のような人事制度が効果的な方法になります。多くの企業が、賃金と能力や実績を連動させることにより、社員間に不公平感が発生しないように工夫しています。

Y社は、賞与をなくし、決算時に会社の利益を分配するかたちにしています。会社の業績が賃金に直接結び付くということを強く意識するようになり、目標管理項目も、より業績に結びつく項目に近づいてきています。

X社は、職務給制度と成果給制度の二つの賃金制度があります。

職務給は、仕事の内容が高度であるかどうかで評価します。成果給は目標管理の達成度で評価します。目標管理では、チームの業績で個人の業績でない場合が多いため、個人別な数字を出さずに評価します。生産現場では、標準時間の改善に貢献したことを評価します。

7.5Sで人を育てる

日常の業務の中から課題を見つけ出すために、5Sの定着が効果的な方法になります。5Sは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」です。5Sは、職場の美化運動だけではありません。職場の改善ができて初めて5S活動が定着したことになります。

5Sは、「トップが率先して推進する」「全員参加」「時間内での活動」が基本です。これがないと定着に至りません。

①整理:不用品を整理することです。不用品伝票で不用品を処理し、職場のムダをなくしていきます。

②整頓:いるものを決まった場所に置き、いつでも使える状態にしておくことです。「モノの見える化」で、モノ探しと運搬のムダをなくします。

③清掃:身の回りや職場をきれいに掃除し点検することです。汚れの発生源を見極め、汚れのもとを断ち、清掃のムダをなくします。

④清潔:整理・整頓・清掃のムダがない職場を維持し、改善することです。

⑤しつけ:ルールを徹底して守ることです。ルールを守らないことにより発生する無駄をなくしす。

8.「見える化」は5Sから始まる

5S活動の推進は生産現場の「見える化」に結びつきます。

「見える化の定着」には、「三現主義(現場、現物、現実)で、自分の体で生産現場の変化を『視える化』する」「自分の五感と感性で問題の前兆やムダの発生を『観える化』する」「自分の頭を使って、問題やムダの原因を探し出し、問題の解決・改善対策、ムダ取りの方策を全員に『見える化』する」ことで効果を生み出します。

9.「作業標準化」と「教育訓練」で5Sを定着させる

5Sの定着には、全員が改善意欲を高める必要があります。そのためには、「作業の標準化」

図1

で基準を作り、「教育訓練」により改善への道筋を教え込みます。

「作業標準」がないと作業者による作業方法のばらつきが発生し、不良品発生し、多くのムダが生じてきます。

さらに検査が標準化されていないとクレーム品が検査をすり抜けて納品され、顧客の信頼を失うことになります。

品質レベルの高いモノづくりを支えてきたベテラン社員がリストラや早期退職でいなくなり、モノづくりのノウハウも消えていきます。技術、ノウハウを伝承するためにも作業標準書を作り、その見直しができる人材を育成していく必要があります。

作業標準書は、三月程度で習得できる初級技能、六か月から一年で習得可能な中堅技術に対して、技術者と経験のある作業者が協力して作成し、現場リーダーがOJTで教育します。

10.現場リーダーの責任明確化と日常基本行動を実践する

生産現場では、現場リーダー(小企業では社長の場合もある)のもとに基本行動を毎日確実に実践することが求められています。自分の作業に追われているリーダー、教育しないで作業を急がせるリーダー、不良品やクレームの発生は担当者の責任とするリーダー、このようなリーダーのいる生産現場は生産目標の達成は困難です。

現場リーダーは、「朝礼による作業指示」「生産現場のパトロールと観察」「トラブルやその前兆発見と暫定対策指示」「問題防止の再発防止と改善対策」「抜本的問題解決対策を検討・指示」の日常基本行動が求められています。現場リーダーなくして改善の推進は不可能です。

11.「報連相」で生産目標を達成する

ベテラン社員のみで生産していたときは、それぞれの作業者の判断で作業が進行したため、作業指示が必要なく、報告の義務も必要なく、トラブルが発生しても連絡なしで処理ができ、問題について相談することありませんでした。

パート、派遣社員が増加した今の生産現場では、作業指示が必要で、報告・連絡・相談は必須事項になってきました。作業指示書で作業項目と生産目標、作業の方法などを的確に指示し、報告・連絡・相談の順守を実施していきます。

R社では、社員一人ひとりが自分の終了した工程に印をつけて、自分の仕事の進行状況を知り、自主的に行動できるシステムを活用しています。社員の名前と工程名をバーコード化して、作業開始時と終了時にバーコードを読み込ませています。管理者は工場の進捗管理画面を呼び出し、ラインの稼働状況を把握することができます。

12.顧客満足と付加価値を生み出す品質保証を定着させる

変化変動する顧客の要求に対応して、競合に打ち勝つためには、企業の質を高めて行く必要があります。企業は、経営(経営ビジョンン、目標、計画)、管理(PDCAサイクル)、製品(顧客ニーズ、安全、適正価格)、人(モラール、能力、多能化、改善力)で質を高めていく必要があります。

企業競争に勝ち残る利益の確保できる生産現場は、「顧客の要求に柔軟に迅速に対応し、要求されたQCT(品質、コスト、納期)を達成し、利益が出ること」「品質保証活動が品質改善だけでなく、品質革新を追及している」「品質革新の品質保証活動は、QCTに加え、製品、安全、教育、管理の面の改革を行っている」ことで顧客満足の品質の実現を目指すことができます。

「品質は工程で作り込め」は、工程で早期に問題点を把握し、対策をとることです。「品質の創り込み」のために品質不良の対策として、人、機械設備、材料、方法、管理、お金の6Mの要因を徹底的に解明し、抜本的対策を打ちます。

13.利益を生む「人づくり」は多能化の実践である

多能化は、変化する顧客の要求に少人数で対応することです。従来の職場を固定したやり方では少人数で対応できない場合もあります。多能化により、忙しい職場と暇な現場が平準化されます。

生産現場で多くの多能化社員ができれば、フレキシブルな生産体制ができ、ローコスト生産が可能になり、やりがいのある明るい職場に変わっていきます。

多能化レベルの「見える化」は「スキルマップ」を用います。スキルマップにより、現状を把握し、多能化訓練スケジュールを作成して教育訓練を行っていきます。

多能化の推進は、トップが率先して多能化の意義を理解させ、会社の方針として職場全員で取り組む雰囲気を高めていくことが重要です。

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今や、IT化なくして経営課題の解決が困難になってきています。リーマンショック、東日本大震災と相次ぐ難題が降りかかる中、この連載が皆様のいくばくかのヒントになれば幸いです。

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